動きを鍛えるという考え方
〇目次
- はじめに
- 動きを鍛えるという考え方
- まとめ
〇はじめに
前回はスポーツパフォーマンスを高めるための筋トレが時代と共にどのように変わっていったかというお話をしました。今回はその続きのお話をしていきたいと思います。
復習となりますが、スポーツパフォーマンスの向上に向けた筋トレの大枠の流れとしては以下のようになっています。
1970年代:ボディビル時代
1980年代:パワーリフティング時代
1990年代:ウエイトリフティング時代
2000年以降:パフォーマンスエンハンスメント時代
2000年以降のパフォーマンスエンハンスメント時代から「動きを鍛える」という考え方が注目を集めるようになりました。
なお、パフォーマンスエンハンスメントという場合、基本的にはパフォーマンスを高めるために必要な要素を網羅的に鍛えることを目指します。その中でも「動きを鍛える」ということが非常に重要となっているため、今回はパフォーマンスエンハンスメントに関する考え方のうち「動きを鍛える」ということにフォーカスをしていきます。
※スポーツパフォーマンスを高めるためのトレーニングについて包括的に書かれた書籍「アスレチック・ムーブメント・スキル」の中で、著者は以下のように述べています。
「動作はアスリートの競技力の基礎となるものである」
by Clive Brewer
動作、つまり動きを鍛えることが競技力を高める上での土台となるということです。
〇動きを鍛えるという考え方
それまでの筋トレでは
➀「筋肉をつけること」
➁「筋力を高めること」
➂「パワーを高めること」
というところに注目が集まっていました。見方を変えると、これは数値化出来る「体力レベル」を向上させるアプローチとも言えます。
ですが、ほとんどの球技では体力レベルが向上しても競技パフォーマンスがあまり向上しないということもしばしば起きます。このような現象の解決策として動きを鍛えるという考え方が出てきました。
これはどういうものかというと、従来の身体をパーツごとに分け(胸、脚、腕、背中 等)て鍛えていくというものに対し、人間の動きを「上半身・前へ・押す動作」「下半身・引く動作」「体幹・捻りに抵抗する動作」といったように、動作別に分けてアプローチしていくというものです。ちなみに私は以下のような分け方をしています。
プッシュ :上半身・前へ・押す 動作
ロウ :上半身・前から・引く 動作
プレス :上半身・上へ・押す・動作
プル :上半身・上から・引く 動作
ヒンジ :下半身・引く 動作
スクワット:下半身・押す 動作
ランジ :下半身・踏み込む 動作
コア伸展 or 抗伸展:体幹・後ろに反る動作 or 体幹・前からの負荷に抵抗
コア側屈 or 抗側屈:体幹・横に倒す動作 or 体幹・横からの負荷に抵抗
コア回旋 or 抗回旋:体幹・回旋動作 or 体幹・回旋の負荷に抵抗
個々のトレーナーや協会によって分け方は異なるため、上記の分け方は絶対正しいというものではなく、あくまで私はそのように分けてアプローチしているのだと思ってください。
特に「ランジ」はスクワットに組み込むことが一般的に多いですが、私はテニス選手を見ることが多く、テニスの場合はスクワット動作とランジ動作共に鍛えた方が良いと考えているため、二つを別動作として分けたうえで、必ず両方アプローチするようにしています。
動きを鍛えるアプローチの場合は、トレーニングのレベルアップの仕方が従来の筋トレとは二つの点が大きく異なります。
レベルアップ方法の一つ目は
「いくつかの動きを組み合わせる」こと。
二つ目は
「バランスへのチャレンジ」をすること。
どちらも、筋力へのアプローチを強めるというよりは「身体のコントロール力」を強めるためのアプローチになります。
まずは、「いくつかの動作を組み合わせる」というレベルアップ方法について
従来の筋トレでは、レベルアップの仕方が基本的には「重さを増やす」ことでした。
(※「スピードを変える」、「可動域を変える」など他のレベルアップ方法もありますが、ここでは分かりやすさを重視しています)
これに対して「いくつかの動作を組み合わせる」方法としては以下のような例があります。
例1)ランジ+抗回旋
例2)ロウ+回旋
いくつかの動作が組み合わさることで動作の難易度が上がり、結果として身体をコントロールする力を鍛えることに繋がります。
二つ目のレベルアップ方法である「バランスへのチャレンジ」について
腕立てを例にすると以下のようにレベルアップが可能です
レベル1:肩幅程度に脚を開いて、両足ついての腕立て
レベル2:両足を閉じて、両足ついての腕立て
レベル3:片脚を挙げての腕立て
レベル4:肩幅程度に脚を開いて、片脚挙げての腕立て
レベル1~4にかけて身体のバランスをとるのが難しいポジションに移行しています。
バランスへのチャレンジの場合は、
・脚幅を狭くする
・両足 ⇒ 片足
・両手 ⇒ 片手
・床or持っている物を不安定にする
このような方法でレベルアップを図ります。
〇まとめ
ここまで2回に渡り、筋トレ=身体を大きくするものというだけではないということを説明してきました。
誤解のないようにしていただきたいのですが、従来の身体を大きくする為の筋トレ、筋力アップを目指した筋トレがだめで、動作を鍛える筋トレが正しいといったことではありません。
あくまで、それだけでは上手くいかない人も多く、その人たちのニーズに答えるために新しい要素が増えていったにすぎません。
実際に私も「動きを鍛える」筋トレと「筋量・筋力アップを目指した」筋トレの両方を指導に取り入れています。スポーツパフォーマンスを高める為にこれらはどちらも必須です。
今回の記事を読んで、筋トレにも色々な手法があるんだなと思っていただけたら幸いです。
また、筋力・パワー向上を目指した筋トレのなかで近年ではVBT(ベロシティ・ベースド・トレーニング)という、速度を測定しながら効率的に進めていく筋トレというものも存在します。こちらもとても有効なアプローチですし、筋トレの概念をいい意味で変えてくれるので興味がある方はこちらの本を読んでみてください。